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2015年03月27日

【今井優杏旅日記20】耳鳴りのするような圧倒的な静寂、トドラ渓谷

自動車ジャーナリスト&モータースポーツMCの今井優杏が月3回ペースで連載する私的旅日記、「旅とクルマと男と女(仮題)」。その第20回は、モロッコ編パート2です!

日本じゃ今、オフィスを持たずにカフェやワークスペースを転転として仕事をする人々のことを「ノマドワーカー」なんていうそうで、まあそういやパソコンひとつでサハラ砂漠から記事をアップしたりしちゃえるお仕事柄、私もその端くれなのかもしれません。
だけど実際に本物の遊牧生活を送るノマドの厳しくかつ誇り高い日常を知れば......。
いや、あの生活を目の当たりにしたあとでは厳しいとか誇り高いとか、そういう安直な単語を使ってこちら側の感覚の尺度で彼らを描写することさえ躊躇われます。ほんのわずかの時間を共有してくれた彼らの心の深淵を、一方的に描写することはあまりにもちゃちです。
だけど、それを承知したうえで敢えて書くならば、やっぱりその生活は気の遠くなるような、果てしない孤独に満ちているように思えて、そしてそう思ってしまった自分自身を、ひどく情報にまみれた俗な存在であるようにも思えました。どちらがいいとか悪いとかではない、ただそこに「在る」ということ。そう生まれたことを受け入れる、ということ。

マラケシュから砂漠の街メルズーガへ抜ける最中、せっかくのレンタカー移動なんだからとツアーバスならあんまり立ち寄らないような場所に宿を取りました(レンタカーのことについてまた別のお話で)。
それがトドラ渓谷でした。
街道きってのうつくしいオアシスがあるらしい、というだけで選んだそこで、砂漠に移動するまでの翌朝午前中から午後にかけ、この渓谷に登ることを提案してくれたのはゲストハウスのオヤジの友人であるAli。自称ガイド、とか、このテの人には玉石混合なのですが、私はなぜか昔からこういう現地の出会いには異様に恵まれます。

日常からトレッキングやロッククライミングをしているという彼と朝食後に出発するも、折しもヨーロッパ人のバケーションシーズン直前、見渡す限り渓谷には私とAliだけ。時折ロバのボエエエエエ! という情けない声だけが山々にこだまするだけで、その姿すら見つけることが出来ません。息を飲むばかりの絶景の連続。
ザク、ザクと小石を踏みしめて登る道、その先にあったのが、放牧で生計を立てるノマドの住む家でした。

耳鳴りのするような圧倒的な静寂の中、羊ともに山々を渡る彼らが、圧倒的なこの景色の中でひとり誰とも話さずに一日を終えてゆくその真実。そういう生活をしている人々がこの地球上にいて、そして今束の間の時間を共有しているということに、私はなんというか、言葉にならないショックを感じました。携帯電話も、ネットもテレビもお風呂もない生活。水は谷底まで3時間かけて汲みに行き、そしてそれが普通のことだと考える生活。蛇口を求めず、コンセントも必要じゃないから、という価値観があるという事実に。
わたしだったら発狂してしまう、と思いました。自分の生活を疑わず、ただ自然を信じて自分を受け入れる。ゲームも本もなく、ただ羊をながめて一日をミントティーとともに終える。この圧倒的なまでの自然を前に、絶景を独り占めするしかないということは、合わせ鏡のように自分自身と向き合いつづけることに等しいと思ったのです。
私を迎え入れてくれたノマドのおうちには、若い妻とふたりの幼子がいました。その、はっとするようなブルーの透き通った瞳の神秘。どういう血の配合でこんなに美しい子供が生まれるのか、と思うくらい、整った顔立ちをしていました。
そしてその蒼の瞳は、この渓谷がすべてで、この渓谷に抱かれて育ち、この渓谷を故郷として大人になり、一生を終えてゆく。ノマドは学校に行きません。一生ノマドとして暮らすのだそうです。その、近視眼的すぎるのか、それとも宇宙的すぎるのか、この渓谷でだけ暮らしていくという彼らの人生ことを考えれば考えるほど、曼荼羅を覗き込むかのような答えのない気持ちになるのでした。
彼らのいる場所、そして私のいる場所。そのあまりの果てしない距離を。

(文&写真・今井優杏|次回は2015年4月6日更新予定)

●燃えるオンナ今井優杏のボンバーブログ
http://www.hobidas.com/blog/tipo/imai/

  • トドラ渓谷の入り口。ロッククライマーの聖地だそうで、バケーションシーズンにはクライマーで埋まるのだそう。

  • 舗装された道は途中からなくなり、あとはノマドの生活するエリアに。

  • 朝から寝起きで5時間ぶっ通しトレッキング! 気持ちよかったけど。

  • 途中、たき火で火を沸かして羊を追いながらお茶をするノマドに遭遇。息を呑む絶景の中、ひとりこうしてお茶を重ねる人生を思う。素敵なような、恐ろしいような気が。

  • ノマドのおうちにお邪魔しました。

  • 貴重な水で入れてくれた甘いベルベル・ティー。ナチュラルなハーブとお茶の葉で出来ていて、胃にとてもいいんですって。

  • ノマドの子供と時間をかけて打ち解けた。言葉は通じなくても、子供とはいつだって超仲良くなれる。

  • 登ったってことは、降りるってこと。

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