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2015年05月31日

【今井優杏旅日記26】蒼の街シェフシャウエンより愛をこめて

自動車ジャーナリスト&モータースポーツMCの今井優杏が月3回ペースで連載する私的旅日記、「旅とクルマと男と女(仮題)」。その第26回は、モロッコ編最終回です!

実は短い間でしたが、この連載は今回で最終回を迎えます。
記念すべき最終回なので、今回はちょっとフィクションのお話を作ってみました。
シェフシャウエンはモロッコでも北のほう、リフ山脈の北麓にある小さな村。村全体が何故か蒼一色に塗られ(諸説あるんですって!)、まるでおとぎ話ようにロマンチックな景観は日本でもたびたび紹介されているから、ご存知の人もいらっしゃるかと思います。
ほんの短い間だったけど、もっと長く滞在したかったな~、みたいな気持ちとシャウエンの美しい景色と、それからモロッコへの恋心を思い出しながら書いていたら、とっても切ない感じになっちゃった(笑)。あまりに景色がロマンチックだったから、ラブストーリーに仕立ててしまいました。

ここでの旅連載は終わりますが、わたしの旅はまだまだ続きます。
またどこかでお会いできることを願って! シュクラン!
(ウチでこの旅連載の続編引き受けます! みたいな依頼も大歓迎です、えへ。←営業)

その蒼い街でも夜明けのアザーンは例外なく爆音で鳴り響き、まだ日の差し込む前の見慣れないこの部屋をたちまちに満たす。自然と目覚めてしまったわたしは、この旅のうちでも最上級に切ない気持ちでそれを聞いた。
「アッラーーーーーーフ、アクバーーーーーール」
イスラム教徒にサラート、つまり礼拝の時間を知らせるアザーンは、イスラム歴に従って一日5回放送される。この国に降り立って初めてこれを聞いたときには、それはそれは厳粛な気持ちになったものだ。マラケシュ、トドラ、メルズーガ、エルグ・シェビ、フェズ、そしてここ、蒼の街シェフシャウエン。2週間にわたって巡ってきたモロッコじゅう、どこにいたってこの放送を聞かない日はなかった。物悲しいほどにがなり立てるその爆音はだから、何の宗教的なしがらみを持たないわたしにとっても、やや神聖なものとなりつつあった。
この国に滞在するすべての人々に毎日5回降り注ぐ、祈りへの誘致。神の存在を強制的にフラッシュバックさせるこのシステム。ありがたいのか迷惑なのかよくわからない。だけど、まるで人目を憚らず無心地に額をこすりつけ、あの方向に向かって人々が一心に祈る姿には心を打たれた。何を祈るのだろう。祈りの先に、何が見えるのだろう。

寝返りをうったら、多分窓が開いているんだろう、冷たい風がひゅんと吹き込んで、硬いシーツの隙間にこもった熱気を逃がした。無邪気な感じで規則的に上下する隣人の眠りを邪魔しないように、そっとブランケットを引っ張り上げる。
この街が、外壁だけじゃなくて内側も蒼に染まっているのだと知ったのは、面白い発見だった。身をかがめなければくぐれない小さなドアの先にあったのは、まるで穴倉のような天井の低い閉じられた部屋。だけどどうぞ、と案内されたソファに座ってみれば、その閉塞感は意外にすとんと腑に落ちる。
イスラムの厳しい戒律は、それからほんの一瞬逃れるための隠れ家みたいな家を作らせた。おそらくここもそうで、外界から遮断するように窓が極端に小さく、ほとんど陽が差し込まない。大邸宅ならともかく、こんなに小さな村の小さな家では、こういう採光が精いっぱいなんだろう。
ここはすべてを隠してくれる。外で禁じられていることすべて、外に残してきたものすべて、外と自分を繋ぎ止めるすべて。ここにさえいられれば、自分でいなくても済むのにと願った。聞き届けられない、悲しい祈り。
奇妙に閉じられた部屋のせいで、昨夜の水タバコの甘ったるい香りが逃げることなくまだそこここに漂っている。

出逢ってしまったら別れるしかないということを、こんなにも痛切に感じるのは旅だからだ。あの声、あの笑顔、交わした会話、一緒に見た景色、それから温度と湿度。そのすべてが過去になってゆく。この蒼の街で魅入られて、わたしの内側はもう、悲しいくらいにつま先まで蒼に染まりきってしまったというのに。
思い出だけをここに残して、もうこの街を出る時間が迫っていた。

(文&写真・今井優杏)

●燃えるオンナ今井優杏のボンバーブログ
http://www.hobidas.com/blog/tipo/imai/

  • 山並みに貼りつくように立ち並ぶ蒼の街。どこを曲がってもこんな光景が。

  • 温暖なモロッコはオレンジの産地。フレッシュな果実がとびきり美しい絵に。

  • スペイン、とりわけアンダルシア地方にもみられるオリエンタリズムあふれる噴水の建築様式。モザイクがとても綺麗。

  • 偶然歩いてきた小さなレディも青でコーディネート。

  • この扉の向こうにはどんな生活があるんだろうって考えてたら、こんなお話ができました。

  • モロッコじゅう、どこにでも猫が。

  • そしてここシャウエンでも例外なく猫は愛される動物です。

  • ずっと夢の中みたいだったシャウエン。この場所に記事で最終回を迎え得ることがなんかドラマチック。

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